(2)読書の実体・性格・過程
書物とは何でしょう?
筆者が心の中で思ったり感じたりしていることを他人に伝えようとする時、瞬時、瞬時に思ったり感じたりしていることを、個々バラバラに伝えたのでは相手には何のことだか分かりません。
そこで筆者は、思ったり感じたりしていることを、ひとまとめに体系化します。
この筆者の心の中で体系化された1つのまとまった考えを、筆者の「意味の世界」といいます。
しかし、この筆者の「意味の世界」は、そのままでは他人に伝わりません。
そこで筆者は、自分の中の「意味の世界」を文字という、他人が目という感覚器官を通して、直接感知しうる外形に託します。
これが書物です。
書物によって、筆者だけの意味の世界は、筆者の内在的主観的なものから、外在的客観的、そしてある場合は公共的(代表は市販本)なものへと変換されます。
次に、読者は筆者が書き連ねた文字群を、自分の目を通して、その意味を汲み取り、その全体的な内容を1つの考え、1つの思想として、読者の立場から、新たな読者の「意味の世界」を作りあげます。
この読者の作り上げた意味の世界は、
「筆者の意味の世界」→「筆者の出筆行為」→「読者の解読行為」
という経路をたどって再構成されたものなので、筆者の意味の世界が、読者によって再体制化されたものに他なりません。
要するに、意味の再体制化作業(心的作業)、これが読書の実体です。
ところが、筆者と読者とでは
経験的背景(教養、学歴、成育過程等)や、付随事項(読書時の健康、気分、感情、さらには社会情勢の変化等)が異なりますから、読者の作り上げた「意味の世界」は、筆者の「意味の世界」と常に一致するとは限りません。
読者によって再体制化された意味の世界は、筆者の使用言語等に拘束されながらも、読者のパーソナリティによって色づけられた、新しい意味の世界だということになります。
これが読書は新しい何ものかをつくるということで、「創造的思考」だと言われる所以です。
俗に「深読み」、「浅読み」などと言われるのもここから生じ、またそこに読書の妙があります。
そこで、速読との関係ですが、
速読で速いということは、結局、上の創造的思考を伴った「意味の再体制化の素速さ」ということになります。
次の項では、この点を「読書の過程」との関係で、更につきつめてみます。
では読書での意味の再体制化作業は、どのような過程を経て行われるのでしょうか?
読書の過程は、次のように分類されて説明されています。
【文字の認知】
まず、文字の認知があります。
これは文字の視覚(形としての文字を先ず捉える)に始まり、文字の知覚、つまり過去の経験の助けを借りての、文字を文字として認識することです。
【語の認知・文の理解】
文字によって示された語を確認し、その語によって表現された意味を探知します。
語の認知は文脈と併行してなされます。
語の意味を探知する過程で、語と語との間の相互限定、または総合(単に辞書に書かれた意味でなく、その文章の中で生きたものとして、使用されている意味を探る作業)等がなされ、語の意味を確認し、その集まりである文章を理解し、そこに一連の意味の系列を作り上げてゆきます。
以上が読書の過程です。
この過程で、読書内容が読者の人格体系の中に素直に組み込まれてゆくことがあります。
これが納得、または会得と言われる場合です。
もし、読書内容が受け入れ難い時は、批判、否定、反発として表れます。
以上によると、速読での思考、あるいは意味の世界の再体制化の素速さとは、
それぞれの過程の素速さということになります。
素速さが、具体的に何を指すかは、「速読での『速い』とは」で述べさせていただきます。
詳しくは「速読での『速い』とは」をご覧下さい。
もっとも、以上は分かりやすくするために、読書過程を単純化して説明したものです。
実際の読書においては、文字を見て、文字をまとめて語とし、語の意味を考え、語の意味を集めて文章の意味とする、 というような単純な作業ではなく、むしろ、部分・全体文脈の中で、その総合としてなされます。
しかしここでは文章が単語の意味を決め、文字さえも全体文脈の中で規定されうることがあることだけを指摘しておきます。
このことはセミナーが、理解力トレーニングを重視していることとも関連します。
速読トレーニングは、トレーニング方法の技術的理由から、文字トレーニングと理解力トレーニングを、段階的に分けて行いますが、実際の読書が、文字の知覚、語の確認等と分けて行うものでない以上、理解力トレーニングでこそ、実質的な文字知覚の増大、そのスピード化等が図られてきます。
理解力トレーニングが速読トレーニングの総括と言われるのは、単にそれが最終のトレーニングだからというのでなく、実質的意義があるからです。
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