(7)文章での語意の確定
文章の中で、語意の具体的、個別的意味はどう確定され、理解されるのでしょう?
辞典に書き込まれた抽象的、一般的語意は、文章中の具体的、個別的語意にとり、一方で過剰であり、他方で不足の関係にあります。
そこで、過剰部分は切り捨て、不足部分は補うことが、文章の中の語の具体的、個別的な意味の確定、即ち、文章の理解に必要な作業となります。
過剰部分の切捨てとは何でしょう?
例えば、「燃える」という語が文中にあったとします。
「燃える」を辞典で調べると、いくつもの語意が記載されており、単に文章中の「燃える」の部分を見たのでは、物が燃える意味なのか、恋に燃える意味なのか不明です。
そこで、燃えるの語の上に目をやると、そこに「木が」という語があったとします。
すると、この場合の燃えるは、物が燃えることで、恋に燃えることではなくなります。
結局、辞典に書き込まれている「燃える」の語意中、「情熱が盛んに起きること」は、過剰部分として切り捨てられることになります。
さらに、「木が」の上に「山の」とあれば、山火事のことを述べていると、理解されます。
このように、ある語(木や山)は、それと両立し難い他の語(燃える)の、一定部分の語意(情熱が盛んにおきること)を削りとる働きをします。
これを、語と語における限定作用または限定効果と言います。
次に不足部分を補うとは何でしょう。
例えば、愛の告白をする場合です。
単に「愛してる」では、自分の気持ちとして不足と考えたとき、「逢わぬと…死ぬほどつらい」などと表現します。
このとき、「死ぬほど」と、「つらい」を合わせて読むことで、単なる「愛」以上の、男女の感情を理解します。
この場合、「死ぬほど」と、「つらい」で辞典の、「愛」にはない、新たな具体的語意を作り、
辞典の「愛」の不足を補い克服します。これを、語と語の総和または相乗と言います。
「花のような彼女」(直喩)、「雪の肌」(隠喩)という場合も、単なる彼女でも、単なる肌でもないものを汲み取るでしょう。
以上のように、現実の文章の中での語意は、単に辞典に書かれた語意だけでなく、限定、総和というような、語と語の前後関係(コンテキスト)、すなわち文脈の中で具体的に確定されてくるので、これを語意の文脈把握と呼ぶこともあります。
速読は文字言語に対するスピード処理に他なりませんから、文章中の語を、単に1語1語、連続して見ればよいというのではなく、語と語の関係、その総和と限定によって、個々の語が何を表現しているのかを迅速に把握する必要があります。
それには現実の文章で理解力トレーニングを何回となく繰り返すことによって、
語の文脈把握をスピード化する以外ありません。
当スクールが理解力トレーニングを重視しているのは、ここにもその理由があります。
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