(8)文章の意味の確定
文章中の語意が具体的、個別的に確定するとこで、その文章の理論的構造が明らかになり、
文章の意味が確定され処理されます。
文章中の個々の語意の確定と、その文章全体の意味の確定についても、いろいろな問題があります。
ここでも読書論との関係に絞って述べます。
■語意の加算と文意
まず、文章は、語の連続あるいは複合体であると言っても、各語の語意の単純加算が、そのまま文章の意味になるわけではありません。
加算の質的転換、つまり文章の意味は、各語の語意の単純加算では考えられない新しい内容をしばしば生じさせます。
その質的転換は、全く偶然になされるのではなく、書き手や読み手が意識するか否かにかかわらず、各語の含意の範囲、背景の文法上の規制や、後に述べる統語法のルールによって秩序づけられてきます。
■文が先か語が先か
文章理解につき、昔から、文が先か語が先かという議論があります。
この問題は、一見、簡単に決着がつきそうです。
文章は語の連続ですから、読者は文章の文頭から逐一、語を視覚にいれ、同時にその語意をつかむ、そして語意の集合として、文章の意味を理解する。
こう解すると、疑いもなく語が先となります。
ところが、上記の「逐一、語を視覚にいれ、同時にその語意をつかむ」の記述が、必ずしも正確でないことは、語意の確定のとろでの説明からも明らかでしょう。
結局、語が先、文が先、というように一方的なものでなく、実際の読書過程は、上からの理解ということもあるし、下からの理解もあるという具合で、むしろ、相互干渉、相互関連のもとに次第に文章の意味が確定(理解)されてくるのが実情です。
■文意と統語法(シンタックス)
語の把握と文章理解の点で、あえて取りあげざるをえない問題があります。
各単語、語意の認知順序と、文章理解のことです。
文は語の連続ですが、文により、ある思想、ある事実を正確に伝えようとするなら、語の連結は、一定の法則に従ってなす必要があります。
この法則を「統語法」といいます。
統語法を全く無視し、単に語を並べると、
「東京は出発したきのう父を」のように意味不明の文章になってしまいます。
この文を正しく伝えるには
「父はきのう東京を出発した」とする必要があります。
ですから、文章を書く段階で語の並び順は大切です。
これに対し、文章を読むときも統語法を守れ、という話はあまり聞きません。
他人が統語法に従って書いた文章を、ただ読めば、それで済むからです。
しかし、正しく書かれた文章も読む段階で、正しくない語順でこれを見るなら、意味不明となります。
読むときも語順が大切な点は、書く場合と根本は同じです。
正しい語順で書かれた文章を、わざと狂わして読む読み手がいなかったので、読みの正しい統語法など、現実には顕在化しなかっただけのことです。
ところが、既刊の速読書や既設の速読教室の中には、嫌でも、正しい語順を狂わせざるをえないような書物の見方を指導している場合があります。
「本を絵として見る、写真のように見る」とか、「本の全ページを上下2段に分けて読む」などと一般の読書法としても論外な指導がなされているのがその一例です。
このような主張にゆめ惑わされないことです。
「読みの統語法」などと、ことさら問題としなくてはならないことは、遺憾なことです。
ページ上の単語をランダムに頭に放り込めば、脳機能は偉大だから、それで理解されてくるとの主張もありますが、そのようなことで統一的な意味の世界が、読者の側に出来上がってくる、そのようなものではありません。
もっとも、総語法は語順と機能語(語と語の関係を示し、形容詞のような、実質的内容を欠くから虚語とも言われます)によって保たれます。
ですから語順といっても、屈折言語であるラテン語ほどでないにしても、日本語は助詞などの機能語が発達しているため、英語などよりは語順は自由です。
前掲例でも、助詞「は」と「を」を正しい位置にする限り「東京を出発したきのう父は」でも「出発した父はきのう東京を」などでも意味は通じます。
これは注目しておいてもいいでしょう。
しかし、この場合でも、倒置文などでは、ニュアンスを伝え難くなることがあります。
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