(9)文章間の文脈効果

これまでの解説はいずれも、文章と、その文章内の語の関係を問題としたもので、
いわば、内側からの文章理解についてでした。
これに対し、その文章の外の事実、とりわけその文章外の文章によって、その文章の意味が定まる場合が考えられ、これを外からの文章理解と言います。

今度はこれを考えてみましょう。
文章は、その文章の前後の文章によって、内容が定まってくることがあり、これを、文章間の文脈効果と言います。


文章間の文脈効果も、前に語と語の関係として述べた、限定、総和等の関係がありますが、語と語の場合に比較して、少し、間接的・婉曲的になるのが一般的です。

文章家、特に小説家は、この文脈効果を適当に操って、一面、非常に限定的、固定的としか考えられない、例えば男女間の愛の問題を見事に克服して、他に比類のない、作者だけの創造的な「愛の世界」、恋愛小説を書き上げます。

ゆえに、小説の種はつきない、となるのですが、この間のことは、先にあげた語と語における文脈効果に準じて検討しておいてください。

■既出情報・新出情報

新出情報と既出情報の流れ

そこで、ここでは、より速読的な文脈効果、即ち、既出情報・新出情報について述べておきます。


  •    母親 「それで美穂は」
  •    美穂 「女の子」
  •    母親 「幸ちゃんは」
  •    美穂 「男の子」
  •    母親 「ゆかりちゃんは」
  •    美穂 「おばあちゃん」

この会話だけ見ても、何のことかわからないでしょう。
この会話の前に、学芸会の配役についてのやりとりがあったとすれば、事情は途端に変わってきます。

一般に読書は、最初の行や最初のページこそは著者からの一方的な情報提供ですが、次の行、あるいは次のページからは、前行、前のページを踏まえた上での情報提供の形をとります。

著者から一方的に与えられた情報が、読者に認識され受容されることで、文字通り共通(common)のものが生まれ、その共通性を土台に著者から次の新しい情報が提供されます。

読者の立場で見て、その時点に知っているものを「既出情報」、その時点で初めて知るものをを「新出情報」といいます。
新出情報は、次の時点で既出情報に転換されてゆきます。

このようにして読者は、ある情報の基礎に次の情報を正しく読み取る、それをもとに、また次の情報を理解する、
そして情報の連続性を保ちつつ、自分の意味の世界という意味の体系を作り上げていきます。

この関係を整理すると、ある文章Aは、それ以前の文章Bによって内容が定まるのですから、
外からの文章理解の一種と言えます。

いま1つ、よく引き合いに出される例をあげておきます。
「ボクはうなぎ」との少年の発言内容です。
それ以前に食堂での注文風景を描写した文章があったのに、それは見落としていたら、
「ボクはうなぎ」の発言内容の意味は不明になります。

既出情報の正確な処理は、速読では重要です。
一般読書とは異なり、通常、後戻りの時間的余裕のない速読では、既出情報の、その場その場での、確実な処理が強く求められます。

ところで既出情報が、後読の文章内容を規定するのは、既出情報が読み手の先行知識として組み込まれるからだと考えられています。

そこで、先行知識と読みに関する興味ある実験を1、2を紹介しておきましょう。
外国での実験例です。

  •    「ネコがネズミを追いかけた」
  •    「ネズミがネコを追いかけた」

幼児に動物人形を使って、上の2つの文章を演じさせると、
両文章とも、ネコがネズミを追いかけると解釈して、そう演じたそうです。

  •    同じように
  •    「ジョンは埋葬されて死んだ」
  •    「ジョンは酒を飲んでパーティに行った」
  •    この文章を再現させると、60%以上の成人が
  •    「ジョンは死んで埋葬された」
  •    「ジョンはパーティに行って酒を飲んだ」
  •    と再現したそうです。

先行知識が異なると文章理解が困難になる例もあります。

  •    京で一番 糸屋の娘
  •    姉は十六 妹は十四
  •    諸国大名は弓矢で殺す
  •    糸屋の娘は目で殺す

日本人なら容易に理解されるこの文章も、外国人にはなかなかわかり難いようです。


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