(4)読書での文字の知覚
速読は短い時間により多くの文字を知覚し、文字によって表現されている語の意味を認識することですが、いったい、文字の知覚、語の意味の認知とは何でしょう。
- ・文字の知覚とは何か
・文字の視覚と知覚
・文字の知覚過程
・視覚像の存在は速読とどう関係するのか
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文字の知覚とは、ここでは
「文字に対する、文字の形としての同一性を認識し、命名すること」
と一応定義しておきます。
コンピュータ開発後の用語例でいう「パターン認識」のことです。
例えば「サ」の線分が紙の上に、物理的、幾何学的特性を持って書かれている時、それが「SA」と発音されるもの、つまり「サ」という文字であることを知ります。
なぜでしょう。
第1は、その物理的、幾何学的特性を「サ」という形としてとらえるからです。
第2は、学校などで「サ」について学んだ過去の記憶(長期記憶)の成果です。学習成果として脳の中に「サ」という型がしまい込まれていたと考えられます。
紙に書かれた「サ」の形(刺激パターン)と脳内の「サ」の形(記憶パターン)をつき合わせ、同じものを決定することを「同定」ないし「命名」といいます。
そして、その同定・命名が文字の知覚に他なりません。
文字を文字として認識することが、文字の知覚です。
ですから文字の知覚は記憶を抜きにはできません。
【名】読むこと、読書、熟読、研究、
調査、勉強、明らかにすること
【名】読書、読むこと、読誦、
音読、読み方、学習
二つとも「読書」を表す
単語のようなのですが
文字の知覚が記憶を前提とすることは、例えば、アラビア文字を知らない人がアラビア文字を見る場合について考えてみるとよく分かります。
その人はアラビア文字を視覚(文字の形を見ること)していないかというと、そうではなく、確かに形としては見ているが、過去学習がないため、それが絵なのか文字なのか、文字としてもどれとどれが同じで、どれが違うか判明しないのです。
この意味で、文字の知覚は、文字の視覚を前提にしつつも、文字の視覚と文字の知覚は区別されます。
この区別から文字トレーニングの目的も導かれます。
文字トレーニングは、文字を絵のように見るのでも、これを知らないアラビア文字のように見るのでもなく、あくまでも文字を文字としてスピーディーに把握することを目的とします。
当スクールが文字トレーニングを徹底的に行っているのはこのためです。
速読とは、文字を読むのでなく「単に見るのだ」、「絵として見るのだ」、「写真として捉えるのだ」との主張が、しばしば見受けられますが、このような言動に惑わされてはなりません。
次に文字の知覚過程について述べます。
文字の知覚過程は心理学的見地から、刺激、反応関係の推論として説明付けられています。
それによると、私達が書面上の沢山の文字を見たとき、それは、脳内のある部位に極く短い間、1時的に蓄えられ、そこから脳内の記憶パターンと突き合わせて、文字を読み取っているといわれています。
この一時的に蓄えられている機構を、視覚情報機構「Visual information storage」(以下VISとする)と言います。
例えば「エコナミソアオラニ……」を提示された直後、掲示文字を再生させられたとします(全部報告実験)。
再生文字は大抵の場合、4~5文字にとどまるとされています。
報告させられた被験者は、もっと見たけど、答えるとなると4~5個しか答えされなくて残念だと不満をもらすそうです。
そこでスパーリングという学者が「部分報告実験」という複雑な実験を通して突き止めたのが上記のVISです。
そして、学者はこのVISに貯蔵される視覚像は無限(勿論、網膜に投射される範囲でですが)だが、非カテゴリー的と述べていますが、難点は、VISの持続時間(150ミリ秒を過ぎると極端に減少する)が短いことです。
このVISの存在は、速読の文字トレーニング、ひいては速読自体にも関係してきます。
どう関係してくるか?
前に述べたように、文字知覚は、文字の同一性を認識し、命名することですが、視覚情報貯蔵の存在を考えあわせると、文字知覚は紙の上の形としての文字(刺激パターン)と脳内にしまい込まれている文字(記憶パターン)を突き合わせるのではなく、いったん視覚貯蔵された視覚像と脳内にしまい込まれた記憶パターンを突き合わせることによって、その同一性を認識することになります。
このことは一面、視覚像が保存されている限られた時間内に長期記憶、短期記憶を総動員して、視覚像をカテゴリー化、符号化、文字の同一性の認識、命名化する必要があります。
もしこの読み取りに失敗すると、いま1度、新規の視覚像を求められることになり、外面的には、視点の回帰現象(1度見たところを再び見返すこと)として現れ、それだけ、読みのスピードを落とします。
ですから速読では、1度の視覚像から確実に文字を文字として認識してしまう必要があります。
セミナーでの文字トレーニングの重要性はここにあります。
視覚像を証明するもう一つの証拠は、エリクセンとコリンズの実験としてよく知られております。
彼らの実験は左の図に示す通りです。
左図の2つのドットパターンは、最下段のドットパターンをそれぞれ半分に分割したものです。
上の二つを重ね合わせると、最下段の「VOH」が読み取れます。
そこで上の2つを0~500ミリ秒内で継時呈示すると、同じく「VOH」が読み取れます。(100ミリ秒近くが、もっともよく「VHO」を読み取れるとされています)
これはVISの存在を十分に証明するものです。
VISの発見は文字による言語理解を、視覚像成立前と成立後に分けて考察することを可能にし、また視覚による言語処理能力の限界をそれが受容系に属するか、認知系に属するかを明らかにできる点で、非常に意義があります。
視覚像の存在は、文字知覚トレーニング、速読自体にも大いに関係します。
限界を超え、本のページを捲ったとします。
その際、視覚像の二重映しが生じかねません。
その結果、本の前のページも後のページも文字判別不能になるはずです。
(速読も科学性を無視しては成り立たないと述べましたが、その理由の一端を示すものです。視点停留を全くなくして、視点飛躍だけで読書をしようとする速読法が、科学的速読法の名の下にあるようですが、これはVISの存在とは矛盾し、それで速読ができるとは到底思われず非科学的です。)
文字知覚に関する、心理的アプローチのもう1つの課題は、これまで述べてきた視覚像情報は、いかにして知覚、つまり文字を文字として認識する過程に変換されるかにあります。
たとえば、文字「ナ」の視覚像パターンは、最終的に、脳においてどのようにして表像、つまり同定、命名されるのでしょう。
まず、鋳型照合モデルがあります。
これによると、私たちの脳内に、鋳型と呼ばれる画像、つまり視覚的表像が、数限りなく記憶とされて貯蔵されていると考えます。
そしてこれらの鋳型には、経験にもとづいて、それぞれラベルがついていると仮定します。
たとえば、水平と下左さがりの2本の線がほぼ中央で交差した形に対応して、ひとつの内的表像が作り出されたとします。
この内的表像を繰り返し経験することによって、記憶(学習)として貯蔵され、「ナ」というラベルがつけられます。
文字同定、命名は、記憶内に貯蔵された、このような鋳型と視覚像から新しく得られた内的表像と照合するための、検索を行うことによってなされると言うのです。
鋳型照合モデルは端的にいうと、視覚像パターンが、記憶されている鋳型ともっともよく合致したとき、それと連合して、記憶している名称が活性化して意識にのぼり、それが同定、命名の心的作用として意識化されるとします。
しかし、「ナ」にも、形が崩れていたり、傾いたり不完全な「ナ」があります。
また、日本文字だけを例にしても、右図に示す楷書、行書、草書などがあり、活字以外の、人の書いた文字(肉筆)となると千差万別です。
このように考えると、人間の脳細胞が無限に近いと言っても、全ての視覚像に対応するだけの鋳型が、私たちの脳内に記憶として用意されているとは到底考えられません。
そこで特徴分析モデルが登場します。
特徴分析モデルによると、右図に示すとおり、知覚系での文字知覚処理は、例えば、処理過程の
第1段階としてのパターンの部分の特徴分析過程、
第2段階としての部分の分析結果を統合する過程、
第3段階としての統合した結果からの、全体としてのパターンを固定する過程
などの、いくつかの段階を経て、文字の同定、命名がなされるとされています。
この考えが、現在一般に支持されており実態にもっとも近いと思われています。
このように考えてくると、速読での文字トレーニングは、
いかにスピーディに(もちろん意識にのぼらないが)パターン特徴分析、その統合などをこなすかのトレーニングといえます。
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